皆さんご存じの通り、2012年にスタートしたFIT法によって、たくさんの産業用太陽光発電所が建設されました。それまでの主流は、住宅用太陽光発電システムでした。当時、太陽光パネルはメンテナンスフリーと言われていた時代です。
アイテスは、そんなメンテナンスフリーと言われていた時に設置され、15年間メンテナンスをしていなかった住宅用太陽光発電システムの実態調査をしました。
調査の結果は、出力低下だけでなく、最悪の場合、火災の原因となりうる危険な状態でした。
1.始めに、設置状態で太陽光パネルを調査
まず、設置状態で、①外観検査、②ストリング単位の電気測定、③パネル単位の電路探査を行いました。
1-1.外観検査
外観検査では、表面のガラスが割れている太陽光パネルを発見しました。
1-2.ストリング単位の電気測定
また、ソラメンテ-Zを使い、ストリング単位で開放電圧とインピーダンスによるP-N間の抵抗測定を行いました。すると、複数ストリングで異常な値が検出されました。
1-3.パネル単位の電路探査
次に、ソラメンテ-iSを使って、パネル単位の電路探査を行いました。ここでは、発電電流の異常をクラスタ単位で確認した結果、複数のパネルでクラスタ故障が発生していることが分かりました。
2.続いて、太陽光パネル単位で調査
そこで、太陽光パネルを取り外し、パネル単位で、①ソーラーシミュレータによるIV検査、②インピーダンスによるP-N間の抵抗測定、③EL検査、④外観検査、⑤湿潤漏れ電流試験を行いました。
2-1.IV検査
IV検査を行った結果、特徴的な2つの特性に分けられることがわかりました。2つのサンプルをグラフ1、グラフ2に示します。
グラフ1は全体的に曲線因子がなだらかに低下しています。
対して、グラフ2は0V~20Vの範囲でも曲線因子が低下していますが、注目すべきは20V~30Vの範囲です。これら20V~30Vの範囲では、極端に曲線因子が低下しています。これはクラスタ高抵抗化によく見られる特性です。
2-2.インピーダンス測定
グラフ3は、上述のソーラーシミュレータの結果から、それぞれの太陽光パネルを出力順に横軸に並べたグラフです。
そして、ソラメンテ-Zの測定により高いインピーダンスを示したパネルを黄色、正常なインピーダンスを示したパネルを青色で分類しています。出力が低いパネルは、インピーダンスが高い傾向にあります。
以上の結果から、太陽光パネルは電路が高抵抗化し、クラスタ高抵抗化した状態では、出力が大きく低下することが分かります。
2-3.EL検査
次に、EL検査を行いました。EL検査装置は電路に電流-電圧を印加し、太陽電池セルを発光させてセルのクラックや短絡しているセルを発見するための装置です。
EL検査をした結果、いくつかの太陽光パネルでは写真1のように本来発光するはずのない電路(赤丸)が発光していました。
また、半面発光していないセルについては、後に断面観察をした結果、セルとインターコネクタが断線していたことが判明しました。
EL検査装置についてはこちら
太陽電池EL検査装置 PVX330
2-4.外観検査
さらに、発光している電路を目視で確認すると写真2のように茶色く変色していました。
EL装置では近赤外の電磁波を検出しています。おそらく、発光していた電路は、近赤外波長に近い赤外線であると推測されます。つまり、高抵抗化により異常に発熱した結果、EL検査の画像として捉えたということです。
2-5.湿潤漏れ電流試験
最後に、湿潤漏れ電流試験の結果をお伝えします。
湿潤漏れ電流試験は、水を張った水槽に太陽光パネルを浸し、電路に電流-電圧を印加して漏れ電流を計測する試験です。
この試験の最中、写真3のように太陽光パネルの一部から気泡が発生し、アーク放電していることを確認しました。
高抵抗化した電路は、状態によっては電流が流れることがあり、高抵抗化した箇所で発熱し続けます。つまり、この該当箇所は、長期に亘る異常な発熱によってバックシートが劣化して孔が空き、絶縁性能が低下したということが推測されるのです。さらに故障に気付かずそのままにしていた場合、絶縁性能が低下した箇所でさらに発熱を続け、最悪、発火に至る危険もはらんでいました。
まとめ
太陽光発電システムの故障は、電路の高抵抗化によって発熱し、発火する恐れがあります。故障を放置しておくと、出力が低下するだけでなく、可燃物が不具合箇所に隣接していると、最悪火災につながる可能性があり危険です。
故障による火災事故を未然に防ぐためには、太陽光パネルはメンテナンスフリーではないということを認識し、定期的に適切なメンテナンスを行うことが必要です。
参考:では産業用太陽光発電所は?
運転開始後から5年経過した、産業用太陽光発電所を点検した動画です。
低圧太陽光5年経過後の不具合事例【#1】