工場や建設工事などの現場では、作業時に安全靴・ヘルメット・作業着等の保護具を使うことはイメージしやすいと思います。では、太陽光発電所の点検時は、何を使えばいいのでしょうか?また、発電所の点検には、何か資格が必要なのでしょうか?太陽光発電所の点検に必要な、保護具と資格についてまとめました。
発電所はバイクのエンジンと同じ?
太陽光発電システムは稼動部がないため、エンジンのような振動・騒音・排熱・ガスを発生しません。一見すると危険はないように見えます。
では、ここで一例をあげてみます。
250[W]のパネルを20直で組まれたストリングが10回路接続されている接続箱を考えてみると…
20[直列]×250[W]×10[回路]=50k[W]
なんと、50[kW]のパワーがそこに存在しています。
50[kW]は約70馬力に相当し、それはバイク(二輪自動車)のエンジンに相当します。駆動しているバイクのエンジンに安易に素手で触ったり、安易に顔を近づける人がいるでしょうか。
動かず、静かな太陽光発電所。しかし、危険な工作物であるということを、まず認識してください。
必要な保護具
太陽光発電所が危険な場所であることは、前項で気づいていただけたと思います。では、その発電所内で作業するには、具体的にどのような準備が必要なのでしょうか。
1.ヘルメット(保護帽)
ヘルメットは使用用途に「電気用」と明記してあるものを使用します。実はヘルメットも「高所作業用」・「飛来・落下物用」など、色々な種類があり、ヘルメットなら何でもいいというわけではありません。間違った用途で使用すれば、万一の時に役割を果たさない危険性があります。そして、国家検定合格品(※)を使用します。(※労働省告示第144号「絶縁用保護具等の規格」にそって作られており、検定マークが貼られています)
また、ヘルメットはシールドがついたものを使用します。
大げさなように思えますが、目の前でスパークが飛んだ経験をしている作業者は、少なくありません。
ヘルメットの装着についても、あごひもはきちんとつけて、ゆるすぎたり外していたりすることがないようにしましょう。
2.絶縁手袋
作業用の手袋といえば、傷・怪我から身を守ることがイメージされますが、それに加えて、感電を防ぐ目的が加わったものが、絶縁手袋です。
絶縁手袋は点検する発電所が「低圧」なのか「高圧・特別高圧」なのかによって、使える手袋が違います。高圧・特別高圧用の絶縁手袋は低圧でも使えますが、低圧用に比べて分厚く、作業性が落ちます。
低圧・高圧・特別高圧の区分については、後述の「電圧の区分」をご参照ください。
こちらの絶縁手袋も、国家検定合格品(検定マークがついたもの)を使用します。
絶縁手袋を使うとき、下穿きに綿の手袋などを着用します。絶縁手袋が溶けてしまった場合の、やけど防止になります。
さらに、絶縁手袋を傷つけないための、保護手袋を絶縁手袋の上に重ねて着けます。「手袋用保護カバー」「保護皮手袋」等の名称で販売されています。絶縁手袋と保護手袋がセットになったものも販売されています。
つまり、下穿き用手袋→絶縁手袋→保護手袋の3枚の手袋を重ねて着けることになります。
3.作業着
衣服は静電気帯電防止対策がされた、作業着を着用します。
作業着は着崩すことなく、ボタンはきちんと留めて、チャック部分は上まで閉じましょう。
ポケットには不要なものを入れないようにしましょう。ポケットに物を入れていると、転んだ際にけがをする場合があります。また、ポケットから物を落としたことにより、思わぬ事故につながる可能性もあります。
4.絶縁長靴
足元は、絶縁長靴を着用します。絶縁長靴も、手袋と同じく「低圧」用・「高圧・特別高圧」用と分かれています。 高圧・特別高圧用は低圧でも使えますが、低圧用に比べると重くなっています。
絶縁長靴も、国家検定合格品(検定マークがついたもの)を使用します。
保護具の取扱い
保護具の取扱いは、説明書や注意書きを遵守し、間違った取扱いをしないようにしましょう。
点検前には必ず保護具の確認を行います。ヘルメットは大きな傷や破損がないか、保護手袋には穴が空いていないか等をチェックします。破損があった場合は、すみやかに新品と交換しましょう。
また、保護具には耐用年数があります。設定されている耐用年数を超えたら、破損していなくても、必ず交換しましょう。
その他、点検作業について
- 高所作業(2メートル以上)の場合は、高所作業用の安全対策が必要になります(安衛則第518条)。具体的には、足場もしくは墜落制止用器具です。
- 点検作業は事故防止のため、単独作業を避けて必ず2人以上で行います。
- 感電防止の観点から、雨天時の点検は実施しません。
発電所を点検するのに資格は必要?
保護具については分かりましたが、では、発電所の点検自体に資格は必要でしょうか?
実は、接続箱の操作を必要とする作業には「電気取扱者」の資格が必要になります。
メンテナンスの資格や設置工事の資格とは違う、作業者が安全に作業するための知識を得ることを目的とした資格です。
では、電気取扱者とは
「電気取扱者」は、「電気取扱業務に係る特別教育」または「低圧の充電電路の敷設等の業務に係る特別教育」を修了した人を指します。
労働安全衛生法第59条第3項、労働安全衛生規則第36条第4号により、下記の業務に労働者をつかせるときは、当該業務に関する特別の教育を行わなければならない、と定めています。
事業者は、危険又は有害な業務で、厚生労働省令で定めるものに労働者をつかせるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務に関する安全又は衛生のための特別の教育を行わなければならない。
労働安全衛生法第59条第3項
高圧(直流にあつては750ボルトを、交流にあつては600ボルトを超え、7,000ボルト以下である電圧をいう。以下同じ。)若しくは特別高圧(7,000ボルトを超える電圧をいう。以下同じ。)の充電電路若しくは当該充電電路の支持物の敷設、点検、修理若しくは操作の業務、低圧(直流にあつては750ボルト以下、交流にあつては600ボルト以下である電圧をいう。以下同じ。)の充電電路(対地電圧が50ボルト以下であるもの及び電信用のもの、電話用のもの等で感電による危害を生ずるおそれのないものを除く。)の敷設若しくは修理の業務又は配電盤室、変電室等区画された場所に設置する低圧の電路(対地電圧が50ボルト以下であるもの及び電信用のもの、電話用のもの等で感電による危害の生ずるおそれのないものを除く。)のうち充電部分が露出している開閉器の操作の業務
労働安全衛生規則第36条第1項第四号
どうやって資格取得できる?
受講資格は満18歳以上。
各都道府県の労働局や電気協会・保安協会で講習会が実施されています。
「低圧」向けと「高圧・特別高圧」向けの2種類があり点検する太陽光発電所の電圧区分によって、受講する内容が違います。電圧区分は、次項の電圧の区分をご参考ください。また、接続箱の操作以外の作業(修理や敷設作業等)を行う人は、実技講習の時間が増えます。ご注意ください。
費用は受講する団体によって違うようですが、低圧向けは1万円前後、高圧・特別高圧向けは2万円前後かかるようです。
受講内容は、以下に記載しました。座学と実技で、だいたい朝から夕方までほぼ一日かかるようです。受講後に修了証が発行されます。
前段に記載した必要な保護具と取扱い方法は、「電気取扱業務に係る特別教育」または「低圧の充電電路の敷設等の業務に係る特別教育」を受講すれば、もっと詳しい説明が受けられます。
教育の内容は?
高圧・特別高圧 「電気取扱業務に係る特別教育」
安全衛生特別教育規定第5条第2項で内容が決まっています。以下の表に掲載している時間以上の、教育を行うこととなっています。また、学科教育以外にも実技教育が1時間以上あります(充電電路の操作業務のみを行う場合)。
科目
範囲
時間
低圧 「低圧の充電電路の敷設等の業務に係る特別教育」
安全衛生特別教育規定第6条第2項で内容が決まっています。以下の表に掲載している時間以上の、教育を行うこととなっています。また、学科教育以外にも実技教育が1時間以上あります(開閉器の操作業務のみを行う場合)。
科目
範囲
時間
電圧の区分(電技省令第2条)
区分
直流
交流
まとめ
- 必要な保護具はヘルメット(電気用)・絶縁手袋・作業着・絶縁長靴です。保護具は「検定マーク」がついているものを選びます。
- 保護具は用途にあったものを使います。「電気用」のヘルメットを使い、手袋・安全靴は点検する発電所の電圧区分に適合したものを使います。
- 保護具は取扱説明書のとおりに取り扱います。破損したもの、耐用年数を超えたものは使用しません。
- 発電所の点検作業で接続箱を操作する場合は、「電気取扱業務に係る特別教育」または「低圧の充電電路の敷設等の業務に係る特別教育」の受講が必要です。
いろいろな保護具や資格が必要で、驚かれたかもしれません。しかし、保護具や安全の知識は身を守るために必須です。みなさん、ご安全に!
「高圧・特別高圧電気取扱者安全必携」中央労働災害防止協会