元AKB48のメンバーで女優の川栄李奈さんのCM起用でも広く知られることになったオリックスのメガソーラー発電事業。地上設置は約840MW、屋根設置型は約160MW、合計1GWに達し、国内最大規模。このメガソーラーの運営管理を担っているのは、オリックス 事業開発部 百合田チーム長率いる運営管理チーム。
ソラメンテをいち早くオペレーション&メンテナンス(O&M)の中核機器として導入し、発電所の品質維持管理を行っている。同社のO&Mについて、百合田チーム長にお話をお伺いした。今回は、アイテスのソラメンテ事業を統括する取締役 製品開発統括部長の藤田との特別対談です。
オリックスが取り組むメガソーラーの運営管理 ~日本最大規模 約1GWのパネル健全性を高めるO&Mとは~
オリックスさんは、ソラメンテをお使いの弊社のお客さまの中でも、発電事業者として国内で稼動されている太陽光発電所は最大規模です。そんなオリックスさんがどのような経緯で再生可能エネルギーを利用した発電事業に取り組まれたのですか?
太陽光発電事業はファイナンスストラクチャリング、不動産との親和性が高い事業であり、もともとリースを核としたファイナンス事業を展開するオリックスのノウハウが生かせる事業分野です。2011年の東日本大震災をきっかけに、再生可能エネルギーによる発電事業に注力するようになりました。
そのような背景の下、2012年のFIT(固定価格買取制度)が施行されたことが、それまでも太陽光パネルの販売、仲介などを取り扱っていましたが、本格的に発電事業に参入し、会社としてエネルギー事業にまで広がるきっかけになったと思います。
当社は自社の資産として太陽光発電所を持っていますが、まずは株主に対して期待される収益を出さなければならないということが基本にあります。そして、最も大きな使命は、社会インフラとして日本のエネルギーミックスを担っているということです。
太陽光発電事業における日本のトップクラスの発電事業者として、一時的なブームではなく、20年以上継続する責任があります。そのため重大なトラブルを起こすことなく発電させなければなりませんし、そのためにはO&Mをやらなければなりません。
数年先を見据えた計画
日本では数百メガワット規模の発電所を所有している発電事業者でも、まだO&Mにあまり関心がなく、数年後に考えればよいというスタンスの事業者も多いのが現実です。それに対し、オリックスさんはどうして最初からO&Mに積極的に取り組まれたのでしょうか?
当社は計画した発電量を継続的に出力することを常に考えています。例えば、車であれば3年後4年後、その先のために、エンジンオイルを交換します。同様に、太陽光発電も数年先を想定して、今何をするべきかを考えなければならない。そのために設備を長期間高品質の状態に維持することが重要です。幸いインバーター(パワコン)に関しては20年間発電を継続できるよう、メーカーと保証契約含めて非常にいい関係を築いています。
しかし、パネルに関しては目前の不良をしっかりと特定し、対処できるようにしておかないと将来のキャッシュフローに影響が出ます。これは4、5年後のキャッシュフローを想定する上でも非常に重要です。
FIT施行当初はとにかく高額な発電所をわれ先にと建設されていた状況でしたから、O&Mはまだまだ先でいいと考えている事業者がほとんどでした。新規着工が落ち着いた今でも、みなさんパネルが飛ぶ、倒壊するという類いの事故や不具合に対し、発電故障には無頓着です。オリックスさんは、2012年から太陽光発電事業をされていますが、パネル、直流部のO&Mをどのように考えておられますか?ここ5年ほどで想定外だったことはなかったですか?
私自身、設備は故障するということを想定していましたが、ここ5年間でパネルを含めて発電設備が故障する現実を目の当たりにしてきました。例えば、工場運営のために生産設備を購入するときは、保守メンテナンス部品のサプライ契約を考慮しているはずです。設備の仕様がいいのは前提として、稼動後のO&Mも考えなければならない。太陽光発電も同じです。20年間の生涯費用を基本として考える必要があります。工場運営と同じで、草刈りなどの環境整備や保安面だけでなく、パネル故障時の交換までも想定した発電所運営のオペレーション計画が必要となるのです。
当社はソラメンテを開発する前からパネルメーカーともお付き合いがあったのでパネルの構造は分かっていました。パネルも故障することが前提であれば、いかに現場で故障を迅速に見つけて対処するかが、ユーザーにもメーカーにも業界全体にも重要ですので、その点に重点をおいてソラメンテを開発し、提供を続けています。
ソラメンテの点検ロジックであればパネルが故障していることは明らかに分かります。ソラメンテはパネルの良否判断が明確です。ですから当社のような発電事業者でもパネルメーカーと話がしやすいのです。
O&Mは人の作業量でコストが大きく変わるので、点検機器を使用した作業工数を考えることが重要です。天候の影響による点検のやりなおしや、技術者のスキルに依存し、点検する人によって結果が変わることは非常に効率を下げてしまいます。さらに、使うたびに機器のキャリブレーション(校正)が必要で、使いにくい点検機器も多いです。そのような中で、ソラメンテが革新的なのは操作が簡単で、さらに誰が点検しても同じ結果が得られることです。作業工数としては、IVテスターでSTC換算してストリングを測定することと比較すると、ソラメンテ-Zの作業工数は恐らく1/4 ぐらいになっていると思います。
O&Mコストは0に近づけるのが理想
ソラメンテの特長を評価していただき有難うございます。
誰が測定しても同じ結果が出るという点はソラメンテの開発コンセプトでもありますので、そのポイントをご評価いただけているのは大変うれしく思います。
しかし、当社もソラメンテがあればすべてのO&Mに対応できるとは考えていません。実際にO&Mをうまくやっている会社は複数の測定手法の使い分け、いわゆるクロスチェックをされています。ソラメンテは何千枚の中からクラスタ故障パネルを最小限の労力で早く特定するための装置です。
一方、IV測定やサーモカメラは、ソラメンテで特定したパネルのエビデンスデータを取るなど、パネルの故障箇所を特定するには必要かつ有効な手段であると認識しています。もしこれらの機器を全てお持ちの場合でも、例えば使う順番が逆ですと、点検効率は何倍も落ちてしまいます。このあたりがO&M事業者の腕の見せ所になっており、当社もO&Mセミナーを開催して、点検の採算性をご説明しています。
当社も、ソラメンテはストリングからパネル単体まで、故障をいち早く絞り込んでいくために使っています。IV測定やサーモカメラは故障パネルが特定された後に、パネル単体のエビデンスをとるために使っています。サーモカメラは発熱部位を特定するためのものとして使っています。
O&Mコストはできるだけ0に近づけるのが理想です。点検機器の費用に比べて大きく膨らむ労務費をいかに削減するかが重要です。技術者のスキルレベルに依存せずに結果が出せるソラメンテはO&Mコストを低減するのに直接役立っています。
技術者はスキルと経験によって対応力に差があります。また、新規導入した機器の操作は教育を受けないとできません。
ソラメンテですと導入した後は簡単な操作説明ですぐに作業に取り掛かれ、かつ作業者のスキルや経験によることなく、均質な結果が出ます。
FIT施行当初から数年先を見据えたO&Mを考えておられたとのことですが、実際にパネルが壊れるということは想定されていたのでしょうか?
現場の担当者が自ら動けるような体制作りが必要
私自身は過去の経験からパネル故障は起こるということを想定していましたが、会社としては実際に起こってみないと対策を打てませんでした。一般的には大きな問題が起こってから過去を振り返るパターンが多いですが、本来は小さい問題を拾い集めて、この問題が加速すると将来はこんな大きな問題が起こるだろうな、と予測し対策しなければならない。ヨーロッパの太陽光発電は、日本より12,3年早くはじまっています。ですからすでに不良や故障事例が多く出ています。オリックスはこうした過去の事例から学び、当初のO&Mストラクチャーを再構築しすでに実行に移しています。その一つがソラメンテの活用です。
今までのやり方をかたくなに踏襲する会社もありますし、まだO&Mというと保安観点のみ、もしくは交流側しか見ていないということも多いかと思いますが、これについてはどのようにお考えでしょうか?
工場のオペレーションに例えると保安は品質保証部門が行う仕事です。工場を運営する上で、安全だけではだめです。生産性を向上させるために稼働率を上げないといけません。このマインドが重要なのです。太陽光発電所の場合、電気保安面を担う技術者は重要ですが、オリックスのO&Mに特に必要な人材は、工場のプラント管理で稼働率を上げる発想を持っている人材です。この人材がまさに太陽光発電所の発電性能を維持する人に相当します。あとは膨大な人をどう配置して実行させるか、マネジメントできる人材が重要です。
生産性を向上させるオペレーションは、トップの判断を待っていたのでは間に合いません。そのためには、階層型組織の頂点の人たちが全て決め、動かすのではなく、現場の担当者が自ら動けるような体制作りが必要です。
オリックスさんはかなり先進的な考えをもってO&Mを実行されているという印象です。
一方で、改正FIT法をはじめとした経済産業省が出す指針はどちらかというと保安面を中心としたものであり、事業計画の法律でも保守・点検の詳細は民間のガイドラインを参照しなさいとされています。業界の標準や規格となるようなレベルにまで踏み込んだ指針がまだ整備されてません。
民間の発電事業者の一社である当社としては、各発電事業者がバラバラに知見を蓄積するだけではだめで、業界が高いレベルでつながっていくことが重要だと考えています。
再生可能エネルギーは国の基幹電源、かつ新たな産業なので、民間同士がつながりをつくり情報共有することが、普及には必要だと考えています。
新しい産業ゆえ発電事業者同士が意見交換するなどもっと水平につながっていかないといけない。そういう意味では、いろんな業界から太陽光発電業界に参入してほしいと思っています。
業界団体から提示されているガイドラインはどれも法的拘束力が無い点がO&Mをルーズにしてしまう一因ではありますが、それ以上に保守が行き渡らない理由として、ガイドラインはコストの観点がないことが挙げられます。
ガイドラインの点検フローを現場で全部やると、大変な時間と労力になります。しかし、ガイドラインも何もなかったときを考えると進歩しています。また、JPEA(太陽光発電協会)は国に公的意見(パブリックコメント)を出す役割を担っています。新しい産業ゆえにこうした機能をもつしくみがあるというのはいいことだと思っています。
さまざまな展示会、紙面上などでO&Mについてのいろんな情報が飛び交っています。これまで太陽光発電の運営を行ってこられれて、それらに惑わされることはありませんか?
パネルメーカーの対応が発電所運用の鍵
パネルにはスネイルトレイル、ホットスポット、デラミネーションなどの現象が起こることがありますが、忘れてはいけないことは、パネルは出力保証しかされていないということです。スネイルトレイル、ホットスポット、デラミネーションが起こっていても発電出力は直ちに落ちないこともあります。当社の発電所では出力が落ちていない場合は、経過観察としています。
これらの不具合はほとんどの場合、解明もされています。ですので惑わされることはありません。
電池をハンダでつないでいるということは、ハンダが外れれば抵抗が上がることは察しがつきます。太陽電池は封止材でラミネートしているので故障しにくいですが、屋外で電池を露出すればすぐに壊れます。ラミネートがうまくいかなかったら故障する、ということはすぐ分かります。
このことから、パネルの故障は2つに集約されると捉えています。
- ハンダの接続がうまくいっていない
- ラミネーションがうまくいっていない
パネルが壊れない以上に、壊れたらすぐに交換、供給してくれるかが重要です。これは太陽光発電運用の鍵でもあります。発電事業者としては壊れたときに迅速に交換対応してくれるメーカーが一番いいメーカーだということになります。
機器の運用を含めて発電所の点検手法についてはどのようにお考えでしょうか?
機器を導入するだけはだめでしょうね。業務を標準化しなければなりません。除草剤をどうするかまですべて当社のチームで決めて、それを作業標準として各地区に展開しています。そうすれば、機器は必要最低限の台数を用意すればいいはずです。ですが、明確な作業標準を配っている発電事業者やO&M会社は少ないのではないでしょうか。作業を標準化するための人材としては、やはり工場出身のプロセス管理者が適任と考えています。この考え方を進める上ではソラメンテのような機器は本当に助かります。
昨今、人工知能ブームでもあり、賢い機器の導入が人の仕事を奪うといわれることもありますが、それについてはどう思われますか?
何をやるべきかという発想で物事を考えると、そうはならないと思います。やるべき業務が把握できていれば、それに必要となる機器と人員が分かります。
また、発電所のタイプによっても行うべきO&Mのやり方が変わってきます。発電によって得られる収益から、かけられるO&Mコストを割り出せば、業務と組織設計ができるはずです。住宅や低圧・高圧・特高、FIT価格の高低によっても変わってくるでしょう。
最後に太陽光発電業界に対して一言ございますでしょうか。
何か想定外のことがあると問題視されやすいのが新産業です。
だからこそ、社会的信用を得るために真摯に事業をやらなければなりません。
そして、再生可能エネルギー業界全体の中で知見に偏りがあってはだめだと思います。発電事業者に、他事業者からも常にフラットに情報が入ってくるようになれば業界全体がよりまとまり、ともに発展することができるのではないでしょうか。