経産省が推進している地産地消型の再生可能エネルギーシステム。長期稼働のためには構築後のO&Mについても地産地消の取り組みが不可欠です。
宮崎県は官・民・学が連携し技術のレベルアップを図り太陽光発電の健全な維持管理と事業発展を両立しようとしている数少ない地域の一つです。今回はソラメンテユーザーが多い地域でもある宮崎県が取り組む地産地消のO&M先進事例をご紹介します。
太陽光発電O&Mの地産地消 宮崎県レポート ~官・民・学で取り組む太陽光発電所O&M技術力向上~
宮崎県は太陽光発電の普及促進に向けたさまざまな取り組みを行っています。
中でも、宮崎県工業技術センターを事務局とした「みやざき新産業創出研究会・次世代エネルギー活用技術分科会」は県内の太陽光発電産業の育成と技術力向上に大きく貢献されています。この分科会には、県内の太陽光発電関連企業や個人が約30社参加されています。
特に産業用太陽光発電所の保安管理業務に従事する電気主任技術者が多数参加しており、各々の立場での知見を有する官・民・学の技術者が連携し技術力を向上をはかり太陽光発電産業の健全な発展を行うために活動されています。
今回の取材では、ソラメンテのユーザーでもある宮崎県工業技術センターの鳥原様、九州電気管理技術者協会宮崎県支部の有志の方々、そして分科会の会長を務めておられる宮崎大学の工学教育研究部(兼 農学工学総合研究科長)の林先生にお話をお伺いしました。
次世代エネルギー活用技術分科会について
「分科会は年4回程度開催しています。テーマの8割は太陽光発電で会員からオープンに問題提起をしてもらい議論をしています。メーカーや業界の方を講師に招いて講演会を主催することもあります
分科会では宮崎大学と宮崎県工業技術センターがハブ的な役割を担っており、特に太陽光発電で重要な直流システムの技術レベル向上のためのネットワーク作りも念頭に置いた活動をやっています」(鳥原様)
宮崎大学は県内の太陽電池関連産業の人材育成を目的として経産省や中小企業支援予算を活用し太陽光発電システム関連の技術教育事業を行ってきました。
「従来の電力システム関連従事者は交流の技術がメインで直流の技術が乏しいのが現実です。
長年電気設備を扱ってきた電気主任技術者においても太陽光発電の直流システムを扱う技術が十分とは言えません。県内における太陽光発電のメンテナンス体制作りを行い、高品質なメンテナンス技術を確立したいと考えています。
電気主任技術者の方々をはじめ、太陽光発電に関連する一般事業者の方にもメンテナンスの技術力を高めて頂き、発電事業主に正しい説明やアドバイスができるようになってもらいたい。これは夢ですが、県内の太陽光発電関連業者の技術力を認証できるような研修制度を導入して、高品質な太陽光メンテナンスの宮崎ブランドを県内外に発信したいと思っています」(林様)
官・民・学の取り組み
「宮崎には太陽光発電のメンテナンスに積極的に取り組む電気主任技術者が多くいらっしゃいます。特に九州電気管理技術者協会宮崎県支部の金丸さんは自らが経験した太陽光発電メンテナンス技術を惜しみなく業界に発信しようとされています。工業技術センターとしては、こういった方の発信力を中立的な立場から支援させていただき、県内への水平展開を支援していきたいと考えています。
太陽光発電のアフターフォローをどう対処するかが重要なテーマです。この活動はスタンドプレーではうまくいかず、官・民・学が連携した活動が必要です。」(鳥原様)
「そもそも、太陽光発電はメンテナンスフリーという間違った考えからスタートしていることが問題です。発電事業者は設置すれば問題なく発電し続けると誤解し、メンテナンス費用を見込んでこなかった。ここに来てようやくメンテナンスの必要性が認識され始めたんです。
工事完了後、工事会社や設備メーカーがいなくなり発電事業者が困っている事例もあるなか、電気主任技術者は制度上必ず必要な存在で、今後は電気主任技術者の重要性はますます高まるでしょう。
私たちは、現場のトラブル事例を調査し、その原因追及と対策案を検討し情報提供を行っています。分科会メンバーと実際の発電所現場の見学を行い先行事例を参考にすることも行っています」(林様)
「現在の制度では50kW未満の発電所は電気主任技術者を選任が必要ありませんが、実際には50kW低圧の発電所でもメンテナンスは必要です。自然エネルギーの普及を推進している宮崎県のNPO法人ひむかおひさまネットワークとも連携し住宅用太陽光発電システムのメンテナンス技術についても情報交換を行っています」(林様)
宮崎県工業技術センターの支援業務
「工業技術センターでは太陽光パネルのメンテナンスに役立つ測定機器を導入しています。
IV測定器、サーモカメラ、アイテスのソーラーパネル点検装置「ソラメンテ」、EL検査装置「PVX」を導入しており、それぞれの機器の特長を生かした測定手法の確立を行っています。実際の現場に出向いて調査方法や測定手法などの技術指導を行うこともあります。パネルを取り外すことができれば、アイテスのEL検査装置を使って故障状態の評価を行うこともあります」(鳥原様)
太陽光パネルの保守点検に取り組む宮崎県の電気主任技術者
みやざき新産業創出研究会・次世代エネルギー活用技術分科会には、民間の会員メンバーとして重要な位置づけを担っている九州電気管理技術者協会宮崎県支部の電気主任技術者の方々がいらっしゃいます。その中でも太陽光発電のメンテナンスに力を入れている4名の方にお話を伺いました。
九州電気管理技術者協会(宮崎県支部)の活動
「2012年のFIT法の施行当初より、宮崎県支部の中で太陽光プロジェクトが立ち上がりました。定期的に勉強会を開催し事例発表やメーカーの技術研修を行い会員の技術力向上を図ってきました。
従来、電気主任技術者は太陽光発電の建設には関与せず、竣工直前に声がかかることがほとんどでした。昨年11月30日に電気事業法施行規則の改正により、500kW以上の太陽光発電所で使用前自主検査が義務付けられました。また、本年4月1日には改正FIT法が施行され、構外へ被害を及ぼす発電所は認定取り消しもあるようです。これまで以上に、主任技術者の役割が重要になると想定しています」(金丸様)
「宮崎県支部は総勢約70名。支部の会員が保守管理している太陽光発電所は約160事業所。会員の約半数が太陽光発電の受託をしています。
本来、電気主任技術者は個人事業として活動しているので横のつながりが少ないのですが、宮崎県は早くから産業用太陽光発電所が建設されたこともあり、例会の中で勉強会をしてメンテナンス技術の水平展開を図っています。宮崎県支部の中には太陽光パネルの点検にソラメンテを導入しているメンバーがいます。特にストリングの異常特定ではソラメンテ-Zの故障検出を高く評価しています」(曽我部様)
技術力を背景に故障パネルの点検で実績を上げる
「多くの発電所オーナーはパネルメーカーの保証があるからと設置後の不具合を気にかけることをしませんが、受託した案件では必ずパネルチェックを行うよう提案をしています。契約したオーナーとはオプション点検として毎年点検を実施しています。
多数の太陽光発電所を所有している事業主と一括契約をして電気主任技術者として保安管理をしています。竣工時から交流側だけでなく直流側の点検も行いソラメンテを使用し故障パネルを特定して交換しています。受託先の500kWの現場では竣工時に5枚の故障パネル特定したこともあります。その後、6ヶ月の点検ごとに2~3枚の故障パネルを毎回特定し交換しています。
当初、パネルメーカーは現場で不良パネルを特定したことに対して疑問を持つこともありましたが、今はソラメンテの結果を提出することでパネルを交換してもらっています。最終的な判断はテスターだけではできません。オーナーへの説明は必ずソラメンテのデータを渡しています。竣工時から故障パネルを特定・交換できたことでソラメンテはオーナーから高く評価されています。現在は、事業主が導入したドローンサーモも併用しながら定常的に故障パネルを特定し交換しています」(井上様)
「太陽光パネルは、同じ影の大きさでも掛かり方で発電量が大きくかわることや、外因では無いバイパスダイオードが導通するような不具合は、メーカー補償の対象になりうることなど、まだ広く知られていないと思われます。
宮崎県支部では、早くから太陽光プロジェクトを立ち上げたり、宮崎県の次世代エネルギー活用技術分科会などに参加したりしながら、太陽光パネルの構造やその点検方法について技術力の向上に努めています。そして、結果としてオーナーに喜んで頂いたり、太陽光を管理する方々のお役に立てればと願っております。
不具合調査では、テスター、直流クランプ、サーモカメラ、IVチェッカー、ラインチェッカーなどを使っておりますが、メガクラスではソラメンテZとiSを重宝しております」(金丸様)
終わりに
宮崎県は官・民・学の連携により、再生可能エネルギーの20年間の発電品質維持のための技術力向上と地域産業の活性化とを進めようとしています。
宮崎県は官・民・学の連携により、再生可能エネルギーの20年間の発電品質維持のための技術力向上と地域産業の活性化とを進めようとしています。
この4月に施行される改正FIT法では、竣工後の20年を見据えた安全で健全な発電品質を維持することが求められています。発電事業者がそのことに感心を持つことを前提とし、その上で、実務を行う電気主任技術者や地域のO&M事業者、それを取り巻く県や学術機関、さらには、部材供給メーカーや我々のような点検機器メーカーも含めて、それぞれが責任を持って取り組むことができれば、太陽光発電所は長期間健全に運用されていき、その恩恵を業界全体が享受できると考えます。
今回ご紹介した宮崎県の事例は、県単位でこれを実現しようとしている好事例です。宮崎県のこの活動が全国に発信されて、さらに他県でも広がることを願ってやみません。
今回の取材は、宮崎大学の林先生、宮崎県工業技術センターの鳥原様、九州電気管理技術者協会宮崎県支部の曽我部様、金丸様、井上様、仁多脇様にご協力いただきました。
皆様ありがとうございました。