太陽光パネルのレントゲン、EL画像検査装置PVXはパネル内のマイクロクラックなどの微細な潜在欠陥をEL発光専用の高精細カメラで写しだす。ただ、欠陥によっては、ほぼ真っ黒になるEL画像からはそれ以上の情報が得難い。PL観察ではさらに詳しい画像が得られ、さらなる欠陥の切り分けが可能となる。ELとPLの原理の違いから、その組み合わせでわかるようになった新たな真実、を解説する。
POPLIでお手軽にPhotoluminescenceイメージを撮影
PVX(太陽電池EL画像検査装置)に、PL光源(商品名POPLI)を組み合わせることにより、PL現象をPVXのカメラで捉えることができる。PVXは、EL (ElectroLuminescence)つまり、電気エネルギーでキャリアを励起させ、キャリアが再結合することで基底状態になり、そのエネルギー差(band to band)分の波長の光を捉える。
PLは、光励起であるからPL光源の光エネルギーを吸収してキャリアが励起し、同様に再結合する、そのエネルギー差がほぼ同じになり、ELと同じ波長の発光である。だから、PVXを用いれば、ELもPLも観測可能である。
ELとPLを両方使って、Rs上昇とRsh低下を分離
EL画像を撮影してほぼ真っ黒な画像になった場合、なにも写っていないのだから、情報が得られない。インターコネクター剥がれや銀電極の腐食が発生すると、シリーズ抵抗(Rs)が極端に高くなり、EL撮影のための電力が供給できなくなる。また、発電層の短絡やPID(電圧誘導劣化)が発生すると、シャント抵抗(Rsh)が低下し、抵抗が低い領域に電流が集中して流れ、セル全体が発光しなくなる。つまり、両方とも、真っ黒で区別できない。しかしながら、ELとPLには励起させるエネルギーの流れに差があるので、この点を利用する。
左図の等価回路に、RsやRshが正常状態でのELの電流の流れを青点線で入れ、右図に同様にRsやRshが正常状態でのPLの電流の流れを青実線で書き入れる。PL状態は、外部の電力でなくセル内部の発電電力で発光するため、正常であればRsの影響を受けない。
SiN形成とBSF形成
次に、反射防止膜(SiN)が形成されると、セルの反射率が変化するので入射光量が増加すると考えられるが考慮せず、反射防止膜のもうひとつの役割である保護膜の機能を取り上げる。保護膜の役割はキャリアの表面再結合の抑制である。表面再結合は熱としてエネルギーを放出するので発電にもマイナスであり、PL発光もない。どちらかというと、無駄に発生したキャリアが消費している。そこで、この表面再結合速度を低下させれば、キャリアの寿命(実効ライフタイム τeff)が長くなる。キャリアの寿命が延びれば、単位時間当たりのキャリア数が増え、PL強度が大きくなる。
このセルでは、バスバーに電力が供給されるが、フィンガー電極が高抵抗しているため、全面のEL発光が観測できない。しかし、発電層は健全であるため、PL発光はセル全面に観測できる。また、正常状態のELで見えているフィンガー電極の断線は、PLでは見られない。ELとPLの特徴を理解し画像DATAを解析することで、不良の原因を理解できる。
PLならば、電極形成前のセルプロセスに対応
EL画像の良い点は、電極を介して電力を供給し発光させるため、電極の欠陥も観測できる。ただ、電極がないとELはできない。その点、PLは光励起なので電極が無くてもPL画像が得られる。たとえば、熱拡散工程(PN接合層形成)後のセルが撮像可能である。
①PN接合層形成
Pタイプの単結晶と多結晶のウェハーに、リンを熱拡散しPSGを除去した試料(PVX300、POPLI-3C使用)
単結晶NG品のPL画像には、中央から年輪状の縞(ドーパント濃度のムラ)が、観察される。 また、黒点や線状(結晶欠陥)も観察できる。 多結晶のPL画像にある黄色の輪の暗い領域は、結晶欠陥が集中していると考えられる。
②SiN形成
シリコンナイトライド層は、反射防止膜と説明されているが、単に反射を防止しているだけでなく、セルの保護膜の機能も併せ持つ。具体的には発生したキャリアがセル表面で再結合して消費されることを防ぐ。PL画像も、シリコンナイトライド層が形成されたセルは、PL輝度が上がる。
③BSF形成
セルの製造工程では、表面電極(銀ペースト)と裏面P+層(アルミペースト)の焼成を1度に行うので、この構造のセルはないのであるが、BSF(BackSide electric Field layer)のみを形成した。
単結晶良品のセルにも、黒点と線状の結晶欠陥が観察され、多結晶セルの結晶欠陥が同じ位置にくっきり見える。電極が形成されていないセルプロセス中の半製品であっても、PLなら非破壊で観察が可能である。
PVXにPOPLIを組み合わるだけで、EL画像だけでなくPL画像も観察できるため、EL画像だけでは判別できなかったRsトラブル(配線異常)やRsh(発電層異常)が切り分けられる。また、電極がなくてもPN接合層が形成されていれば、PL画像から問題を捉えることができる。
前半はPL現象の原理とその観察結果でわかること、を解説した。後半は、PVXで観測するPLの明るさ(強度)でセルの良し悪しを説明でき、セル加工プロセスが進むほどPL強度は増す、といった、PL観察が太陽光発電素子のベースとなる、半導体ウェハーのドーパント濃度や結晶欠陥の検出に寄与することを報告する。
POPLIでお手軽にPhotoluminescenceイメージを撮影
PVX(太陽電池EL画像検査装置)に、PL光源(商品名POPLI)を組み合わせることにより、PL現象をPVXのカメラで捉えることができる。PVXで観測するPL強度(明るさ)で、セルの良し悪しを説明できる。これをセルプロセスで解説する。
熱拡散プロセス
P型シリコンウェハーにテクスチャーを形成し、P(リン)熱拡散工程の終了で、粗く表現すれば、日射により発生するキャリアの量が決まってしまう。つまり、PLによるキャリアの発生量はドーパント濃度に比例し、照射エネルギー量にも強すぎなければ比例する。POPLIでの観測条件を一定にすれば、同等のセルであれば同じ強度のPLになる。この時点で、面内にPL強度のムラがあれば、ドーパント濃度の分布ムラか結晶欠陥が疑われる。
SiN形成とBSF形成
次に、反射防止膜(SiN)が形成されると、セルの反射率が変化するので入射光量が増加すると考えられるが考慮せず、反射防止膜のもうひとつの役割である保護膜の機能を取り上げる。保護膜の役割はキャリアの表面再結合の抑制である。表面再結合は熱としてエネルギーを放出するので発電にもマイナスであり、PL発光もない。どちらかというと、無駄に発生したキャリアが消費している。そこで、この表面再結合速度を低下させれば、キャリアの寿命(実効ライフタイム τeff)が長くなる。キャリアの寿命が延びれば、単位時間当たりのキャリア数が増え、PL強度が大きくなる。
実効キャリアのライフタイム(Teff)と表面再結合
速度(S)には、式1の関係がある。
1 = 1 + 2S 式1
τeff τbulk W τbulk :バルクライフタイム、W:厚さ
さらに、実工程ではありえないが、Al-BSF (back side electric field layer) のみを形成してみる。BSFは、裏面の保護層であり、また、キャリアに電界効果を発揮するので、キャリアの寿命が延びる、この効果は、PL強度で見ることができる。
各プロセスアウトでのセルのPL強度
このデータは、同一製造ロット内の試料のものであるが、同一インゴットから切り出した別々のウエハーのものである。厳密には結晶欠陥は異なり、ドーパント濃度も同じではない。PL強度はプロセスを経るごとに強くなっていく。その中でも、BSF層の効果は大きい。実効ライフタイムもBSF形成で大きく延びると考えられている。
セルのPL画像を観察することで、セルプロセスのコンディションを可視化できる。